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「……挨拶、ですか。それは、具体的にはどういった──」 「俺はちゃんと言った。──ありがとうございました」  おもねるように丁寧な問いを重ねた周防に、しかし答えたのは男性ではなく、カウンターの向こうで先程から我関せずとばかりに沈黙していたくだんの従業員だった。 「だから、さっきから何だその挨拶は! それがひとに礼を言う態度かっ!」 「──いいからおまえは黙ってろ! 話が余計ややこしくなるから!」  まさに火に油を注ぎかねない冷ややかとも取れる反応に、案の定、逆上した客がふたたび声を荒げる。さらには、制止するつもりがうっかり口から飛び出してしまった本音に、今度はその矛先が周防に向けられる。 「……は? 今、あんた何て言った? 話が余計ややこしくなるって? その言い方だと、まるで俺が難癖付けてるみたいじゃねえか」 「……あ、いえ、大変失礼いたしました。彼のお客さまに対する受け答えがあまりにひどかったもので、つい……」  しまった、とおのれの失言を悔やむももう遅い。周防のしどろもどろの弁解を耳にして、それまで激高していた男性の顔がすうっと能面のような無表情になる。ある意味、怒鳴り散らされるよりも危険な兆候だった。 「つい? へえ、そうか、それがあんたの本心か。……まったく、揃いも揃ってなってねえな、この店は。従業員も従業員なら店長も店長か」  だいたい何だその茶髪は、と、今度こそ難癖以外の何ものでもない理不尽な八つ当たりをされ、内心でほぞを噛む。こうなってしまうと、もはや謝罪は何の意味も持たず、あとはただ延々と、この客の言い分を、彼の気が済むまでひたすら頭を垂れて受け入れるしかなかった。
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