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「……あー、ったく、朝から気分が悪いな。二度と来ねえよ、こんなところ」
「あ、お待ちください、お客さま。本当に失礼なことを申しまして──」
言いさす周防を無視して、捨てぜりふを吐いた客がカウンターに置かれていた缶コーヒーを無造作にさらって表に出ていく。その背中に向かってもう一度、申し訳ありませんでした、と大声で謝罪したあと、周防はため息混じりに、カウンターに佇んだままの問題児をぎっと睨み付けた。
「……安積(あずみ)、てめえ、またやりやがったな」
これでいったい何回めだと思ってんだ、とぼやく周防に、けれど安積と呼ばれた当の本人はまったく自覚がないらしく、むしろその剣幕に呆れたふうに肩をすくめてみせた。
「……今の対応のいったいどこに問題があったのか、俺の方が逆に教えてもらいたいくらいなんだが」
しれっと言い放つと、もう用は済んだとばかりに、セルフレームの眼鏡を外してクリーナーで拭き始める。少しも反省の色が見られない風情の男に、ふつふつと周防の胸のなかでくすぶっていた怒りが再燃する。
「はあ? どの口がそれを言ってんだ。いいか、だいたいおまえは昔から──」
「……あのー、すみません。お願いしてもいいですか?」
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