10.現在

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 車内のアナウンスが目的地到着を告げて、ともに降り立つ人びとに連なるようにしてホームを見渡す。画面のなかの点滅は今もなお同じ場所に固定されており、それが駅近くの建物であることを周防に伝えていた。  改札を出て徒歩で数分、当該施設と思われる商業ビルの前に佇み、その全貌を仰ぐ。  さて、ここから先はどうするか、と考えて、ふと目に入った外看板の文字に、周防は慌ててエレベーターホールに向かった。  安積が、先程からずっと動かずそこにいるということは、ある程度、長居ができるところと見て間違いないだろう。さりとて、彼のあの性格を考えたら、ひとりのんびりとウィンドウショッピングと洒落こんでいるとはとうてい思えなかった。  そうして、もっとも可能性が高いと思われるネットカフェと案内表示された九階でエレベーターを降りる。自動ドアをくぐってすぐ目の前にあった受付で、いちばん短いライトパックを選択すると、周防は祈るような気持ちで狭い廊下を進んだ。  しかし、ここからが難問だった。それこそ迷路じみた店内をぐるりと一周してはみたものの、ずらりと並んだ仕切りの低い小さな個室をまさかひとつずつ覗いて回るわけにもいかない。ひとり途方に暮れて、とりあえず無料のドリンクバーでも利用しようかと、周防がそちらに足を向けたときだった。 「──……周防?」  少し離れた場所から自分を呼ぶ懐かしい声音に、振り向く前からその正体が分かって全身がぶわりと粟立つ。奇跡とも呼べる僥倖に、むしろ信じられない気持ちの方が勝って、周防は畏怖にも似た思いで背後を振り返った。
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