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11.現在
何だか安積とふたり、妙にはしゃいだ気分になって、周防はドアを開けた先にあるけばけばしいダブルベッドに一緒にダイブした。突然、ふたりぶんの負荷を掛けられたベッドがぎいっと不満げな音を立てるのまで何故だかおかしくて、つい忍び笑いがもれる。
襲うぞ、と啖呵を切ってはみせたものの、さすがに仕切りなどあってないようなあのネットカフェで暴挙に及ぶ勇気はなく、周防は安積を伴って、怪訝そうに自分たちを見つめる店員に料金を支払うとさっさと外に出た。さりとて、ふつうのビジネスホテルなどはあいにくまだチェックインの時間帯を迎えておらず、結局、あからさまに目的第一という感じのこの場所に、先程ようやくたどり着いたという次第だった。
「……なあ、それにしてもすごいな、ラブホって。俺さ、初めて入ったけど、こんな日曜の真っ昼間からほぼほぼ満室って。世間では、どんだけ愛を語ってんだって話だよ」
「──忘れてるみたいだから一応言っておくが、俺たちも、その真っ昼間から愛を語ってる連中の立派な仲間だぞ」
「……分かってるよ」
こんなときでも冷静さを崩さない隣の男に苦笑して、周防は横たわったままの安積の顔をうえから覆いかぶさるようにして見下ろす。高校生のときは掛けていなかったのに、そう言えばいつの間にか彼のトレードマークになっていた眼鏡を、そこからそっと外してサイドボードに置くと、まずは様子見とばかりにキスを仕掛ける。
「……、……っん、……」
最初は、唇をなぞり合わせるだけのごく浅いものから、一歩踏み込んで、そのすき間にある歯列を割って口腔に侵入する。迎え入れるようにひらめく舌に舌を絡ませて、どちらのものとも分からない水音のなか、貪るみたいに唾液を啜りあう。
「……おまえはずっと、親父のことが好きなんだと思ってた」
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