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やったあ。おれは心のなかでガッツポーズを決めた。となると、おれもプレゼントを用意する必要があるわけで、唯ちゃんはなにが欲しいのかな、そう思い、その品を頭のなかで探りはじめた。
エスカレーターを挟んだ、催事場の反対が貴金属売り場になっていて、おれたちはその前を通って出入り口に向かっていた。唯ちゃんは、ガラスケースのひとつに気を奪われていて、おれがのぞきこむと、指輪が燦然と輝いていた。
ははあ。おれはボーナスの額を胸算用した。さりげなく唯ちゃんの欲しい指輪と指のサイズを確認できないかな、と思い、妙案を思いついた。
「お母さんにプレゼントはいいの?」
おれが尋ねると、唯ちゃんはとまどったような顔で見返してきた。
「お父さんのだけだと不公平じゃないかな。お母さんの指には、どんなリングが似合うんだろ? 自分の好みでいいから、ちょっと選んでみてよ」
唯ちゃんが、父親への紳士服のプレゼントにかこつけて、おれの好みを探っていたように、そう尋ねてみた。この謎かけにきっと気づいてくれるはずだ。
唯ちゃんが指さしたのはルビーの指輪だった。彼女の好みにしたら大人っぽいなと思っているうちに、店員が素早くガラスケースを開け、指輪を取り出した。おれが口を開く間もなかった。唯ちゃんは、薬指にはめたリングをためつすがめつ、うっとりした表情で見つめていたっけ。
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