彼女のパパ

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 店内に入ると、予想以上に高級そうで、おれはそうとうびびった。サービスマンにコートを預けながら、よくこんな店を予約したなと驚き、その代金は自分が払うんだと気づいて、もっと驚いた。出費を計算しようとして、あきらめた。おれの想像をはるかに超えていた。  サービスマンの親玉みたいなのが現われ、慇懃に挨拶した。おれたちを席に案内しながら、「お連れさんがお待ちです」と柔らかな表情を向けた。  お連れさん? おれは意味がわからなかった。  奥まったテーブル席の横には、見覚えのある女性が立っていた。黒いドレスに赤い首飾りが映え、唯ちゃんそっくりの笑顔で頭を下げるんだ。  おれはわけもわからず、自分の席についた。さしむかいには、唯ちゃんとその二十年後と見まごうばかりの女性が座っていた。彼女のお母さんだ。 「裕子の母で、天野唯といいます」  と自己紹介をして、母親のほうが会釈した。 「えっ」とおれは、ずっと唯ちゃんだと思っていた相手に視線を向けた。 「娘の裕子です」と彼女が頭を下げた。  そのときはじめて自分の勘違いに気づいた。唯というのは母親の名前で、彼女の本当の名前は裕子なんだ。  おれは店で、最初に唯ちゃんの名前を聞いたときのことを思いだした。あのとき彼女は、「天野唯といいます」とお母さんの紹介をしていたんだ。母親にたしなめられていたのは、娘のそんな勝手な行為に対してだったと、ようやくわかった。     
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