彼女のパパ

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 なに笑ってんだよ。唯ちゃんはおれに気があるって。よせやい。相手は四十二歳のおばさんだぜ。ちゃんづけなんてするなよ。おれの天使だ? バカ。アラフォーの天使なんているもんか。  だいたい一回りも離れたおばさんが、おれに色目をつかうなんて気持ち悪いんだよ。おれも? 年が十以上離れた娘に手を出そうとしてるって。男と女の年齢をいっしょにするなよ。おれはいいんだ。  それからどうしたって? 三人で食事をした。とちゅうで抜け出そうかと思ったけど、裕子ちゃんが、ちらちら見張っているんだよね。けっこう豪華なディナーだったけど、おれ、ちっとも味がわからなかった。  コーヒーを飲み終えると、「これからどうします」なんて唯さんが訊くんだ。  ここはホテルだったのを思い出した。おれは立ち上がり、「明日は仕事が早いんです」と早々に退散した。  誰が食事代を払った? ありがたくおごってもらったよ。指輪の代金を考えたら、割に合わないって。おれも腕時計をもらったけどさ、あれは一万円そこそこの代物だぜ。  とにかくおれは、ぜったい裕子ちゃんをあきらめないぜ。唯さんがおれに気があるなら、それを利用するだけだ。お母さんだけが、おれと裕子ちゃんをつなぐ絆だもんな。妄想でふくらんだバブルを破裂させたままでおくものか。指輪のローンだってまだ残っているんだぜ。
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