彼女のパパ

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  彼女はレジ待ちの最後尾で立ち止まり、肩ごしにおれを振り返ったんだ。顔の片側にかかった髪がさらりと揺れ、瞳も揺れて、目が合った。その瞬間、なんていうのかな、びびっと雷に打たれた感じ。  えっ。打たれたことあるのか? あるわけないじゃん。電撃くらったことあったら、おれ、いま生きてないって。  それで彼女なんだけど、列に並んでいた、四十過ぎの女性といっしょになり、なにやら話しかけられていた。母親なんじゃないかな。ふたりの横顔が見えていて、それがそっくりなんだよね。母親にあいづちうちながら、彼女の長い睫毛が、おれのことうかがってんの。    バカ、妄想なもんか。おれ、意識されてんの、ばっちり感じたもんね。彼女は間違いなく、おれに気がある。  女子高生なんじゃないかって。母親と買い物に来てたから。それはないって。二十歳ぐらいには見える。なに。おれが、いくつかって。三十二じゃないか。おまえといっしょだろ。中学の同級なんだからさ。わかってるわかってる。十二も年が離れてるって言いたいんだろ。いまは年の差婚がはやりなの。十以上離れてるぐらい、めずらしくもなんともない。    えっ。切腹ものだって。上等だよ。あの娘とつきあえるんなら、立派に腹切ってみせるさ。妬くな妬くな。介錯してやる? よせやい。おまえ、刀剣商だろ。なんか冗談に聞こえないって。 
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