彼女のパパ

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 天野唯ちゃんと再会したのは一週間後だ。  うん。唯ちゃん。いつのまに自己紹介しあったかって。いまからそれを話してやるから。    唯ちゃんは、また母親らしき女性と買い物に来ていた。牛乳売場で、生クリームを手に、ふたりで話し合っていたんだ。おれ、思い切って話しかけてみることにした。 「ホイップをお探しですか」  そう声をかけると、ふたりはちょっと驚いたようだ。唯ちゃんの手には二種類のホイップがあって、それを見くらべると、おれに可憐な眼差しを向けてきた。 「どうしてこのふたつ、こんなに値段が違うんですか」  はじめて彼女の声を聞いて、おれ、ぞくぞくとしちゃったよ。 「安いほうは植物性油脂をつかっているんですよ」  おれの答えに、えっ、と唯ちゃんが首をかしげてさ、髪が揺れて、すっきりした輪郭がのぞくんだ。斜に見上げる瞳が、なんともキュートだった。 「牛乳じゃないんですか」って彼女がたずねた。 「値段の高いほうには生乳が使われています。ちょっといいですか」  おれは片方のパックの表示を確認してから、 「生乳四十パーセントです。当然、生乳の多いほうが味もいいです。そのぶんお値段もはりますけどね。くずれやすいので、デコレーションに使うなら植物性のホイップがおすすめです」  そうなんだあ、と唯ちゃんの瞳に、尊敬するような光が浮かんだ。  おれは得意になって説明を続けた。
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