彼女のパパ

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「市販のケーキに使われているのも、三分の二は植物性クリームを混ぜています。生乳百パーセントだとホイップしても固まらないんです。四十パーセントあると少し柔らかいですが、くずれるほどではなく、舌の上でとろけるようで、とてもおいしいですよ」  唯ちゃんは感心したような顔で聞いていた。クリスマスを来月にひかえ、おれ、本社で生クリームの研修を受けていたんだ。 「高いほうにしなさい」と母親が口をはさんだ。  唯ちゃんがうなずき、生乳四十パーセントのホイップを、カートの買い物カゴに入れた。ふたりはレジに歩きだしたんだけど、ふいに唯ちゃんが振り返ってさ、 「河合さん」  いきなりおれの名前を呼ばれた。心臓が止まりそうになったよ。 「天野唯といいます。どうぞよろしくお願いします」  彼女がぺこりと頭を下げ、恥ずかしげに背中を向けて、レジ待ちの列に戻っていった。母親にたしなめられているみたいだった。娘の大胆な行動に、親として黙っていられなかったんじゃないかな。  おれの心臓は高鳴っていた。やはり彼女は人間じゃない。天使だ。おれの名前まで知っていた。ネームバッチを見たって。わかってるよ、そんなこと。天使の夢にひたっていたいんだからさ、黙ってろよな。  ふたりが立ち去ったあと、おれはなかなか仕事が手につかなかった。またきっと会えると確信していた。   ふらふらとレジ近くの雑誌コーナーに来ると、占い特集と書かれた一冊が目についた。おれはすぐさま自分の恋愛運をチェックした。 『運命の人と巡り合うでしょう』  そう書かれていた。  やっぱり、と思い、夢中で続きを読んだ。 『年の差に驚かないで。勇気をもって行動することが大切です。その人はあなたのアプローチを心待ちにしています。そろそろ結婚を考えてみたら』  うひゃあ。おれはその場で飛び上がりそうになったよ。なに。占いなんて信じないって言ってた。おれが? いちいちうるさいね。占いなんてのは都合のいいとこだけ信じればいいの。  幸せにひたっていると肩を叩かれた。売り場主任が立っていて、仕事中なにやってんだって叱られた。おれの顔、にやついてたみたいでさ、バックヤードで大目玉くらったよ。
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