彼女のパパ

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 それから母娘はよく買い物に来るようになった。週に三日ほど、夕方の六時過ぎくらいかな。来れば、なにかしら言葉を交わした。訊いてみると、隣の女性はやっぱり母親で、あらためて似ているなあ、と思った。  そんなある日、唯ちゃんがひとりで店にあらわれた。冷凍食品を売り場に並べおえたところで、声をかけられたんだ。おれは彼女の姿を見て、凍えきった体がじんわり暖かくなった。 「お父さんのクリスマスプレゼントを選んでもらいたいんです」  唯ちゃんがそんなことを頼むんだ。  大人の男性がどんなものを欲しがるか、知りたいんだって。おれはもちろんオーケーした。いっしょに選ぶということは、ふたりでショッピングをするということで、これってデートじゃない。  いいから、黙って聞けって。翌週、デートの約束をした。冷凍庫から出たばかりで、顔がかじかんでいなければ、表情がゆるんでいたところだ。     
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