彼女のパパ

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 なに? おっさんの意見を聞きたかっただけって、おれ、まだ三十二だぜ。唯ちゃんからすれば、おっさんだ。うるさいよ。おまえ、ほんっと乙女心がわからないやつだな。考えてもみろよ。売り場で見かけ、ほんの少し言葉を交わしただけの相手と買い物に行きたいって言うんだぜ。デートの口実に決まってんだろ。  もっとも、おまえに乙女心って言っても無理か。刀剣ひとすじだからな。いまからその顛末を聞かせてやるよ。  デート当日、おれは期待に胸をふくらませ、指定された駅の改札口で待っていた。そこはおれが通勤にも使う駅で、いつもは仕事でいやいや通る改札なんだけど、きょうは天国への扉のように感じられた。母娘がよく買い物に来ることから、唯ちゃんはこの街のどこかに住んでいるんだ、とそんな想像をしていた。 「河合さん。ごめんなさい。待ちました?」  彼女だ。白いニット帽に白いコートを着て、マフラーにうずめた頬がほんのり上気している。息をきらしていて、時間に遅れないように走ってきたようだ。おれは、ぜんぜん待たない、ってバカみたいに首を振っていた。  ふたりで横断歩道を渡り、お目当てのデパートに向かった。街路樹に巻かれた電飾を見て、もうすぐクリスマスだなって、感慨にふけったもんだよ。  十二月に入って、店内はひどく混雑していた。一階の催事場には、クリスマスツリーや飾り物のコーナーがもうけられていて、唯ちゃんと歩きながら、ふたりでイブを過ごせたら最高だなあ、と胸がおどったよ。
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