彼女のパパ

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 まずは紳士服のフロアに上がった。唯ちゃんはいろいろなブースをまわっては、あれこれ悩んでいた。感じがつかめないから、とおれの体に上着やチョッキをあてたり、着せたりした。  店員は、お似合いですよ、とお愛想を言ったけど、別におれが着るわけじゃないんだよね。お父さんの服のわりには若やいだものを選んでいた。寸法だっておれと違うだろうに。唯ちゃんの父親といったら、いくつくらいなんだろと思った。  おれが尋ねると、唯ちゃんは困ったような顔で、 「はっきりとはわからない。でも、お母さんより若いよ。これなんか、どうかしら。着てみてくれません?」  そう言って、ハンガーにかかったジャケットを差しだした。  おれは試着した姿を鏡で見ながら、どうかしら、と訊かれても、正直、よくわからなかった。そもそもファッションにはまるで興味がない。 「お父さんの趣味はわからないからなあ」っておれが言うと、 「河合さんの好みでいいの。わたしのパパと体型がよく似ているから、河合さんに似合うものなら、パパにだってぴったりよ」     
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