彼女のパパ

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 そんなことを言うんだ。おれはうすうすわかりはじめてきた。なにがって? おまえ、まだわかんないのかよ。お父さんのと言いながら、唯ちゃんは、おれへのプレゼントを選んでいたんだよ。  試しに、「腕時計のほうがいいんじゃないかな」なんて、おれの欲しいものを言ってみると、唯ちゃんは、「いいかも」って、あっさり紳士服フロアをあとにし、おれを時計売り場に引っぱっていくんだ。  唯ちゃんは、時計のことはよくわからないようで、ガラスケースをのぞきこみながら、ずいぶん目移りしていたようだ。おれがわざと高級時計を見せてくれと言うと、唯ちゃんはちらりと値札を見て、困ったように眉をひそめるんだ。その表情の色っぽいことといったら。もう、たまんなかったね。  もちろん唯ちゃんに、そんな高級品が買えるわけがなく、おれは値ごろなやつを見立てておいた。お父さんへのプレゼントにしては、安っぽかったかもしれないけどね。彼女はその場では買わず、もう少し考えてみると言っていた。  でさ、エスカレーターを降りながら、唯ちゃんがなんて言ったと思う? 聞いて驚くなよ。真剣そうな表情で上目づかいにおれを見ると、 「十二月二十四日って空いてます?」  そんなことを訊くんだぜ。おれ、ステップから転がり落ちそうになったよ。
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