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Chapter 5
「美郷さん」
「うわぁっ」
「ちょっと驚き過ぎです」
モールの渋めの喫茶店で、尚晴は遅めの昼食を摂っていた。ぼけっとしていた尚晴の前に、いきなり橘が現れた。今日は黒い前開きのパーカーに白いTシャツ、黒っぽいジーンズ姿だ。体格の問題なのか、カジュアルな服装なのに品がある橘はとにかく目立つ。
「ご一緒してもいいですか?」
誰かを待っているわけでもない。尚晴はいそいそと置いていた荷物を自分の横に移動させ、彼のために椅子を空けた。その間に、今日は見られても笑われない服装だっただろうかと確認する。まぁ、どのみち、襟付きのシャツにチノパン、ちょっと傷んできているかいないかの違いしかない、無難な服しか持っていない。
「お昼休憩ですか?」
急な遭遇でドギマギして、分かりきったことを尋ねてしまった。橘は気にする様子は全くなく頷いた。
「美郷さんはお買い物ですか?」
エコバッグに入れた本に目を向けられ、尚晴は少し恥ずかしくなった。服よりも、こちらが問題だった。洗濯を繰り返しているエコバッグはヨレヨレで格好悪い。気になりだすと、取っ手の糸が解れているのが物凄く恥ずかしくなってきた。
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