Chapter 1

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 問診が終わると、カルテを置いた橘が背後に立った。 「それでは、失礼しますね」 「はい」  ついに来たと思った。背中にタオルを掛けられて、心臓がトクンと鳴った。橘に言えなかったことがある。尚晴は人に触られるのが苦手だ。誰かが近くにいる感覚、自分の意志で動けない状態に置かれると、時にパニック状態に陥ってしまう。薬を飲んできたから、そこまで酷いことにはならないはずだが、こういったシチュエーションは初めてなので、どうなるか分からない。  すっと背中を撫でおろされ、腰、首といった順に、橘の手が触れていく。春物の薄手の服とタオル越しにも自分よりも高い彼の体温を感じた。 「……?」  不思議な感覚だった。触れられるだけで、少し痛みが和らいでいくような気がした。 「腰よりも問題は首の方にあると思います――肩甲骨が動いてないです。肩も酷いですね」  両側から、首の筋を揉み込まれる。言われてみると、確かに、ガチガチになっている気がした。最初に痛みが出たのは橘が指摘した首の方だったが、そんなのは人に会うとしょっちゅうだったので、直そうとも思わなくなっていた。 「首の痛みが強くなるのは、お仕事されている時ですか?」     
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