Chapter 2

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 尚晴はハッと目の覚めるような思いがした。もしこれが信頼していない相手だったら、勝手だの傲りだの言われて、腹が立っただろう。良く知りもしないで、と憤慨したかもしれない。相手が橘だったからこそ、そうは思わなかった。尚晴は治療を必要としている者として、橘はその望みを叶えてくれる者として、そこには既にある種の結びつきが生まれていた。 「――僕は怖いんです。早くに両親を亡くしたので、今度、また何かあったら……まだ子どもでよく分からなかった時とは比べ物にならない辛い思いをする――そう考えると凄い恐怖が襲ってくるんです」  大きく息をついた橘は、やっと表情を緩めてくれた。 「俺だって怖いですよ。けど、辛い経験も含めて、そういうものなんですよ、人間って。生きてるってそういうことだと思います」 「先生は強いですね」  そう言うと、橘はいつもの笑みを見せてくれた。 「そうなのかもしれませんね。図太いってよく言われます。でも、俺も二年ほど前に、母を亡くしているので、仰ることは凄く分かるんですよ」 「あ……すみません」     
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