Chapter 2

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 橘は尚晴の肩から背中に手を回すように、ポンポンと叩いてくる。元々、身体に触れられることを前提で来ているので、あまり気にしなくなっていたが、今は特に触る必要はないのではないだろうか。 「教壇に立つ時はどうされてるんですか?」  尚晴は首を傾げて唸った。うまい説明が浮かばない。 「えっと、特に調子が悪い時以外は平気です……その、自分で何とかできる時は大丈夫なんです」  今度は橘の方が首を傾げた。 「何とかできる時?」 「ほら、満員電車とか車とか会社だと逃げられないじゃないですか」  橘は身体まで傾げて腕を組んで考え込んでいる。尚晴の感覚はやはり普通ではないのだろう。大勢の人が毎日、どこかしらに働きに行っていて、誰も彼もが牢屋に閉じ込められるような感覚を味わって日常生活に支障を来していたら、こんなふうに社会はまわっていないだろう。 「俺、別に美郷さんを閉じ込めたりしませんよ?」 「ち、ちがっ……そうは思ってない――のかな……?」  慌てて顔の前で両手を振っておきながら、最後は疑問形でひとりごちた。不安に思っていなかったら、薬は飲まないはずだ。 「気分が悪い時は、言って下さっていいんですよ。ちゃんと止めますから。俺は医者ではないですし、薬は飲むなとは言いませんが、でも、大丈夫そうな時は飲まずに来て下さい」 「え、ああ……ええ」     
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