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書き終えた問診票を橘に渡しすと、彼は大きな身体を屈めて丸椅子をコロコロ引き寄せると、尚晴のすぐそばに腰掛けた。
「美郷さん、ですね。お住まいは、ああ、知ってます。すぐそこですね」
「はい、五分もかからないです」
橘は微笑んで問診票に目を落とした。スッと真剣な表情になる。こんな先生がいるなら、もっと混んでいても良さそうなものだ。橘はいわゆる女性受けする外見だった。平均よりも明らかにがっしりとした広い肩幅、厚みのありそうな胸板。鼻筋が真っ直ぐで、眉と目の間隔が狭く、真っ直ぐな眉の下の目は横幅が広い。整い過ぎているが、きつい感じがしないのは、澄んだ瞳と涙袋、何より穏やかな物腰と笑顔のお陰だろう。前髪をあげて撫でつけている黒髪も、清潔感があり誠実そうだ。
「大丈夫ですか? その様子ですと、座ってるのもかなりお辛いですよね」
問診票から顔を上げた橘が、尚晴の瞳を覗き込んでくる。
「えっ」
尚晴は驚いた。問診票に痛いところは記載しているが、至って自然に振舞っているつもりだった。本当は橘に指摘された通り、浅い呼吸で何とか痛みに耐えている状態だ。
「暫く問診させていただきたいのですが、横になりますか?」
「いえ、結構です」
頭の中を読まれたようで怖くなり、咄嗟にそう答えていた。感じの悪い言い方になってしまったかもしれない。尚晴は誰に対しても、自然体に振舞うことができない。治療のためとはいえ、初対面の相手だと尚更だ。ちゃんとした人に見られたくて、的外れでよく分からない見栄を張ってしまう。
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