Chapter 3

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「すみません。随分お待たせしちゃいましたね」  カーテンが開き、橘の手が尚晴の脹(ふくら)脛(はぎ)に触れた。 「美郷さん、寝てました?」 「ええ、眠くなって……」  嘘だったが、女性がべちゃべちゃ甘えるように橘と喋っていたのを一言一句漏らさず聞いていたとは言えない。橘の優しい手が、尚晴の腰を探り始める。 「美郷さんって、よく寝る方ですよね。俺はもう昔と違ってそんなに眠れないですよ」 「昔って、そんな歳じゃないじゃないですか」  一旦そうやって話し始めると、きゅっと縮こまっていた心は、はらりと解けた。身体と同じだ。自分では具体的な場所を把握できていないコリや痛みを、橘はその手で探り癒してくれる。  ややあって、橘は再び口を開いた。 「美郷さんって、俺のこといくつくらいだと思ってます?」  橘の方から自分の話を振ってくれて、妙に胸がざわついた。日常の出来事や考えたことなどはよく話してくれるが、彼は自分自身の話はあまりしない。患者を把握する必要性はあっても、逆が必要ではないのは分かるので、納得していた。 「え……うーん……あっ――」  押されたウエスト部分に、ゴリッという違和感と痛みを覚えた。 「ここですね、痛いですよね、すみません」  身を竦ませた尚晴に、橘はおもねるように言った。 「僕と同じくらいですか?」  話が途切れては残念なので、尚晴は急いで答えた。 「同じくらい……ではないですかね。大して変わらない気もしますが、人によって判断は微妙なラインかと」  橘は曖昧に否定し、尚晴の首筋に手を這わせてきた。彼の温かい手が首や翼の辺りを辿っていく感覚に、尚晴は大きく息をついた。 「二十代後半、ですよね?」  橘のニュアンスだと、思ったより彼は年下ということだろう。できるだけ歳が近いといいなと思った。
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