Chapter 3

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「あ……」 「え、痛かったですか?」  橘は尚晴の足首に視線を戻した。尚晴の心臓はまだ早鐘を打っている。今、脈診されたら、どう思われるだろう。 「な、何でもないです」 「そうですか? はい、オッケーですよ、お疲れ様です」 「ありがとうございます」  橘は珍しくレジカウンターの方へ、スタスタ歩いて行ってしまった。まだ次の患者は来ていない。施術後の会話を期待していた尚晴は、拍子抜けした。尚晴の落胆は大きく、すぐに後に続けなかったほどだ。橘は、仕事で尚晴の治療をしているだけだと分かっている。なのに、その優しさに友人のような、あるいはそれではすまない感情を抱き始めている自分が情けなかった。 「美郷さん? あれ、美郷さんのだと思いますよ」  まだ座っていた尚晴に、橘はカーテンの横から顔を覗かせそう言った。 「え?」  橘が何の話をしているのか、全く見当が付かない。 「俺のじゃなかったので、美郷さんのですよ。電話のバイブ。さっきからずっと鳴ってたでしょう? あと少しで治療も終わるところだったし、何も仰らないので、言わなくてもいいのかと思ってたんですが……」 「あ……気付かなかったです。でも急ぎの連絡なんてないはずなので」  仕事は済ませてきたところだし、婚活で知り合った女性の誰とも今は連絡を取ってない。どうせDMが連続で来たかなにかだろう。 「だったらいいんですが、一応、確認された方が――」  荷物を預けている棚の扉を橘が開けてくれる。やっぱりヴーヴーヴーヴー鳴っている。鞄の中を探っているうちに一旦止まった。取り出して履歴を見ると、知らない番号から複数回着信があった。スマホを持ったまま、尚晴は予定外の出来事に暫しフリーズした。
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