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「掛け直してみた方がいいんじゃないですか? 間違いなら、それでスッキリしますし」
橘が言い終わるかどうかというタイミングで、また電話が鳴った。尚晴は嫌な予感がした。どんどん怖くなってきて、気分も悪くなってくる。息を詰めながら、通話ボタンを押した。
「もしもし――え……事故? 事故って、あの……」
電話を掛けてきた人は、姉の同僚だと名乗った。姉が事故に遭ったと言われ、他の言葉は理解できなくなった。吐き気のようなわけのわからない不快感に攫われそうになり、咄嗟に喉元を押さえた。事故は嫌だ。両親は事故で呆気なく逝ってしまった。喉が閊えて話ができない。身体がガタガタ震え呼吸がおかしくなってくる。我慢できずに、鞄を入れていた棚に凭れかかった。
「美郷さん、大丈夫? 座って。スマホ貸して」
離れていた橘が飛んできて、すぐ後ろの施術台に座らされた。
「失礼します。美郷さんが混乱されているので、代わりにお伺いします――友人です――ええ、はい、分かりました――はい、そこなら知ってます――構いません。すぐ行きます」
手早く話を終えた橘は、ドアに掛かっていた診療中の札をくるっと裏返した。
「少し待ってて下さい」
「でも、い、行かないと……」
姉が事故に遭って病院に運ばれた――どこに運ばれたと言っていたのか思い出せない。いや、聞いていない。どうやって行けばいいのだろう。尚晴は額に拳を当てた。ひんやりした嫌な汗で濡れている。全く頭が回らず、脈打つ自分の鼓動で鼓膜が破れそうだった。
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