Chapter 1

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「大学を出て就職してから、段々あちこち具合が悪くなって……そんなに深刻じゃないんです。危ない病気でもなくて――」  橘が指摘してきたのは、抗うつ薬や睡眠薬の類だ。あまり大声で言いたいことではない――というより、誰にも言いたくない。つい言い訳から始めてしまって、慌てて軌道修正した。 「えっと、薬自体を飲み始めたのは八年くらい前で、今の処方になったのは四年くらい前だったと思います」  口にしてみて、もう随分になるのだと気持ちが沈んだ。二十代の半分を病み暮らしてしまった。それだけの間、薬漬けになっていると思うと怖いものもある。 「必要なお薬を飲むのは悪いことではありません。お薬を飲みながら仕事されている方は、ここに来られる方にも結構いらっしゃいますよ。心も体と同じで具合が悪くなることは、誰にだってありますから」  尚晴の言い訳に気付いた上で、橘は諭すでもなくそう指摘しているようだった。だが世の中には、偏見を持っている人が多い。尚晴本人だってそうだ。心療内科に通っていることを、風邪をひいて内科にかかるのと同じようには話せないし思えない。だから、つい、先回りして言い訳めいたことを口にしてしまう。     
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