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「くすぐったいです」
「ああ、すみません。今日は帰りますね。DVD置いていきましょうか」
橘が立ちあがったので、尚晴も彼に倣う。
「いいえ、申し訳ないので持って帰って下さい」
もし彼がまた来るのが嫌になった場合、その方が気まずくならなくて済むだろう。
「あの、それから、良かったら、パン持って帰って下さい」
「美郷さん、食べないんですか?」
迷惑なのか遠慮なのか、DVDを取り出していたので橘の表情は見えない。
「他にもあるので迷惑じゃなかったら……」
そんなことを言われても困るだろうと思ったが、他にいい言葉が浮かんでこない。
「勿論です、喜んで」
確認した橘の笑顔は社交辞令ではなさそうだった。尚晴が返さなくていいようにビニールの保存袋に、残りのパンを急いで入れていると、橘がキッチンを覗き込んできた。
「浴衣買ったんですか?」
机の下に押し込んだまま、彼が来る前に箱を寝室に移動するのをすっかり忘れていた。
「姉が送って来たんです。送り返そうと思ってて……」
「え?」
「姪たちの分を買ったついでらしいですけど、着る機会もないのに貰うは勿体無くて」
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