Chapter 4

20/21
前へ
/181ページ
次へ
「くすぐったいです」 「ああ、すみません。今日は帰りますね。DVD置いていきましょうか」  橘が立ちあがったので、尚晴も彼に倣う。 「いいえ、申し訳ないので持って帰って下さい」  もし彼がまた来るのが嫌になった場合、その方が気まずくならなくて済むだろう。 「あの、それから、良かったら、パン持って帰って下さい」 「美郷さん、食べないんですか?」  迷惑なのか遠慮なのか、DVDを取り出していたので橘の表情は見えない。 「他にもあるので迷惑じゃなかったら……」  そんなことを言われても困るだろうと思ったが、他にいい言葉が浮かんでこない。 「勿論です、喜んで」  確認した橘の笑顔は社交辞令ではなさそうだった。尚晴が返さなくていいようにビニールの保存袋に、残りのパンを急いで入れていると、橘がキッチンを覗き込んできた。 「浴衣買ったんですか?」  机の下に押し込んだまま、彼が来る前に箱を寝室に移動するのをすっかり忘れていた。 「姉が送って来たんです。送り返そうと思ってて……」 「え?」 「姪たちの分を買ったついでらしいですけど、着る機会もないのに貰うは勿体無くて」     
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1741人が本棚に入れています
本棚に追加