Chapter 1

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 静養中に、元々得意だった英語で何かできないかと翻訳の勉強を始めた。貯金を切り崩して、情けないが背に腹は代えられず姉夫婦にも助けを借りて修士課程で更に勉強した。大学院で博士課程で学んでいた友人と再会し、高校の英語講師の仕事を紹介してもらうこともできた。こうやって振り返ってみると、何とか再び生きていく糧を得られて幸運だったと思う。けれども、周りが恋愛して、キャリアを積んでいく二十代後半を、体調不良と勉強、将来や金銭的な不安にどっぷり浸かって過ごしてしまったことは悲しい。気付いたら僅かにいた友達も、家庭ができて仕事も忙しくなり、ほとんど没交渉になってしまっていた。何故かそういう細かいことまでポツポツと橘に語ってしまった。  相槌を打ちながら聞いてくれていた橘は、尚晴が話し終えると静かに口を開いた。 「こういった仕事をしていると、色々な方にお会いするんですが、大抵の人は美郷さんみたいに自分と向き合うことはしてないですね。それがいいのか悪いのかは、その人次第だと思いますが、深く考えずに生活してらっしゃいます。何となく想像つかれると思いますが、仕事も駄目になっては辞めて、問題と向き合わないまま転職を繰り返す人が多いんですよ」 「凄く分かります」  橘の澄んだ瞳は、真っ直ぐに尚晴を見詰めていた。ものの二十分程度だろうか、たったそれだけの時間しか話をしていないが、橘の言葉は的外れでも馴れ馴れしくもない。お世辞を言ったりもしない。そのことに尚晴は大いに感嘆した。だが、口に出して伝えたのはそれとは全く関係のないことだった。 「え、えっと、薬の量自体は減らしてはいるんですよ……えっと……」  折角の真摯な言葉には何も答えず、尚晴は勝手に話題を変えてしまった。それでもやっぱり、仕事なので当然と言えばそうなのだろうが、橘は優しい笑みを浮かべたままだ。 「大丈夫ですよ。どんな症状なのか、もう少しお伺いしてもいいですか?」     
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