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ポトフはすごく美味しいが、やはり食欲は沸いてこない。
このまま食べなければ辛いことから逃れられるのかな、なんてバカな考えばかりが浮かぶ。
「やはり食べれないか」
「……すみません」
洗濯物を抱えた佐藤さんが俺を見ていた。
「そんなんじゃ家族も心配してるだろうな」
「いえ、今は1人なので」
「1人で暮らしているのか?」
「違います。兄と2人暮らしなんですが、兄が出張してるので後数日1人なんです」
その時「なーお」と鳴きながらクロが俺の足に体を擦り付けてきた。
「クロも心配してるぞ」
理由を聞かれないことにホッとしながら、ありがとうの気持ちを込めてクロのあごを撫でた。
「規則で泊めてやれないんだが、大丈夫か?」
「はい」
何気なく壁を見ると、成人式らしい娘さんと写っている写真が目につく。
「ああ、それは娘で、2年前に成人式をしたときの写真だ。今は遠くの大学に行っている」
「綺麗ですね」
素直に感想を言うと、佐藤さんが嬉しそうに笑った。
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