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次第に冷静さを取り戻す頭の中に、じわりと黒いシミが広がる。
怖い。
桜庭の顔を見るのが怖い。
声を聞くのが怖い。
ああどうしてこんなことを。………俺は一時の感情で全てを台無しにしてしまったんだ。
体から力が抜け倒れそうになるが、それを誰かがぎゅっと支えてくれた。
誰か?
いや、桜庭が。
「先輩 、すごく顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
声に険が無いのに勇気付けられて恐る恐る顔を上げると、桜庭が心配そうに俺を見つめていた。
━━怒ってないのか?
「しんどいですか?気分は悪くない?」
首を横に振って答えると、良かったと安堵のため息をもらす。
「ほら、しっかりしてください。たぶん貧血かなにかでしょう。俺、ハンカチとか持ってないんだから。困った人だな」
そう言いながら、桜庭は優しく頬に触れた。
人前で泣いたのは、初めてだった。
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