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クロを通して用務員の佐藤さんと話すようになったのだが、やはり優しい人なんだなと思う。
無口なので怖い人と誤解されやすいみたいで、現に一穂はそう思っていた。
一穂……。
こんなに好きなのに、なんでうまくいかないのかな。
球技大会の帰り道、一穂は何かを考えているみたいだった。どうかしたか尋ねても何でもないと答えるだけの姿に少しだけ焦りを感じた。
それから一週間後、一穂から距離を置きたいと言われた。
俺が一穂を好きな気持ちは折に触れて伝えてきたつもりだったが、一穂には届いてなかったみたいだ。
「冬樹は悪くないよ。冬樹が僕の事を好きだって事は分かってるんだ。ただ、僕の独占欲や嫉妬心が強すぎて、このままじゃ自分を嫌いになりそうで怖いんだ。だから、少し距離を置きたい。冬樹から離れて自分の気持ちを整理したいんだ。ごめん」
泣きながら告げられた時、嫌だ、離れたくないって心では叫んでいた。だけど、ここまで追い詰めたのが俺だと思うと何も言えなかった。
━━━また大切な人を傷つけてしまった。
俺に出会わなければ皐月も一穂も傷つかずに済んだのかな。
分かったと答えた。それは覚えている。が、その後どうやって帰ったか、どうやって過ごしたかの記憶はない。
それから3日、両親と兄と約束したとおり休まず高校に通っている。
唯一の癒しはクロと遊ぶことだった。今日もいつものベンチでクロを抱いていたら佐藤さんに会ったんだ。
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