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2月末のある日。
俺は、高校にあるとは思えないほどの立派なホールのステージに立って全校生徒を眺めていた。
学生全部合わせてもたかだか600人程度しかいないから大丈夫だ、と聞いていたが全然ダメだ。
あれは、カボチャだ。カボチャ、カボチャ、カボチャ……
呪文を唱えてみてもカボチャに見えるわけがない。
━━気持ち悪くなってきた。
気を紛らわせようと横を見ると、一穂が大丈夫という風に頷いてくれる。一穂は一見気弱そうに見えるけれど、実際は俺なんかより余程しっかりしてるんだ。
その時、「生徒会長、1年A組 桜庭 冬樹」という司会の声が聞こえた。
一穂に頷き返して演台の前に立ち、目に力を込めて生徒達を見回すと、ざわざわしていたホールが次第に静かになっていった。
━━出来るんなら初めからやれよ
心の中で一言文句を言ってから、口を開く。
「この度、生徒会長に選出されました桜庭 冬樹です。この学園に入学してまだ1年なので分からないことだらけですが、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします」
頭を下げると、「頑張れよー」「頼りにしてるぞー」という励ましに混じって「桜庭様ー、かっこいい」「結婚してー」という声が聞こえた。
そうだ、これだけは言っておかないと。
ため息を圧し殺して口を開く。
「皆さんに1つだけお願いがあります。俺には恋人がいてその人を悲しませたくないので、昼休みの告白は無しにしてくれると助かります」
急に辺りがシンと静まり、背中を汗が伝う。
━━あれ、俺何か間違ったかな?
どうしていいか分からずにとりあえず曖昧な笑顔を浮かべると、皆がコクコクと頷いてくれてホッとした。
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