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日が落ちて真っ暗になった海を眺めながら、意識は温かく包まれた背中に集中していた。
ポタリと首に滴が落ちてきて思わず身を竦めると、先輩が小さく「あ」と呟いて髪をかき上げた。
「風邪ひきますよ」
「平気だ」
拗ねたように先輩が答えた時、部屋のチャイムが勢いよく鳴った。
「あ、夕食……」
すっかり忘れていたが、着替えたらロビーに集合だった。
「いないのかな?もしかしたらすれ違ったかも」
伸也の声が聞こえる。
「電話鳴らしてみようか?」
「もう一度ロビーに行ってからにしようよ。俺達がいないって捜してるかもしれないし。」
「そうだな。正宗先輩と冬樹だしな」
信用してもらって申し訳ないが、完全に頭から抜け落ちていた。
「先輩、もう行かないと……」
「分かってる」
そう言ったのに、更にぎゅっと抱き締められる。
「俺は、お前達の幸せを邪魔するつもりはない。だが、冬樹を好きな気持ちをどうしても消すことができないんだ……」
先輩が俺の頭に顔を埋めながら「すまない」と呟いた。
再びポタリと垂れた滴が肌を伝う。頭からだと分かっているのに、まるで先輩が泣いているように思えて悲しくなる。
「だがらといって、冬樹とどうこうなろうとは思っていない。………俺はお前を幸せにしてやれない。高屋敷を継ぐ俺は、家のために意にそぐわない結婚をするのだから」
先輩にかける言葉が見つからず、ただ頷くしか出来ない自分がもどかしい。
「恋人ではなく仕事で俺を支えてくれないか。父が沢村に支えられているように。本音を言うと高屋敷という大きな組織を動かして行くのはすごく怖い。悪夢に魘されることもある。だけど、冬樹がいてくれたら頑張れる気がするんだ」
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