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その日を境に、伸也が少しずつ変わっていった。
「何を見てるんだ?」
「卵焼きの作り方。こんな風にふわふわの卵焼きが作りたくて」
料理サイトの写真を勢いよく指し示した伸也は、俺を見た途端目の周りを朱に染めた。
「お前が作るのか?」
「や、たまたま美味しそうだったから……」
生まれてから一度も自分で料理等したことがない伸也が卵焼きを作ろうとしているなんて……。
びっくりして声がでない俺に、信也がおずおずと聞いてきた。
「正宗兄さんは、甘いのと出汁味のと塩味ならどれがいい?」
呼び方が変わってるのにも気づいてないのか?親戚だと口外してないので、普段は正宗先輩と呼ぶようにしているのに。
「誰のために……?」
質問には答えず疑問を口にすると、聞こえないくらい小さな声で「冬樹」と漏らす。
━━冬樹って、桜庭?
「あ、冬樹卵焼きが好きみたいで、苳子さんのを美味しそうに食べるから。だから……」
苳子さんというのは田辺家のお手伝いさんで、叔母に代わって伸也を育てた人だ。苳子さんの作る料理が大好きな伸也が、自身も好物の卵焼きを桜庭に食べさせたというのか?
伸也は、まるで好きな人の話をしているように幸せそうに目を細めた。
━━まさか、桜庭 冬樹が好きなのか?だけど、彼は……。
2人が付き合っているかどうかは知らないが、骨折した一穂の側にはいつも桜庭がいてサポートしているし、一穂も桜庭に身を委ねている。2人の間に入り込む隙なんてないと思うが。
伸也を変えた桜庭 冬樹という人間に、ますます興味が沸いてきた。
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