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「先輩、正宗先輩」
「えっ……桜庭?」
「どうしたんですか?」
━━ああ、そうか。今の俺はあんなに探さなくても桜庭に会えるんだ。嫌な顔もされないし、名前で呼んでもらえる。
あの時から比べるとすごい進歩だ。大満足じゃないか。
なのに。
桜庭の気持ちが別の誰かにあるというだけでこんなにも気持ちが落ち込む。
「見回り行きますよ」
「ああ……」
「光彦先輩、行っちゃいましたよ。ほら」
桜庭が俺の腕に軽く手を添えた。
「…………」
俺は桜庭の肩に手を回し抱き締めた。
「………先輩?」
ダメだって分かってる。だけど、この温もりを離したくはない。
ごめん、桜庭。
だけど、後少しだけ……。
体育館から聞こえる歓声をぼんやり聞きながら、俺はただ大切な物を手の中に閉じ込めようとした。
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