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寝付けない時は本を読むと眠れるとはよく言うけれど、続きが気になるせいで読み終わるまで寝られるわけがない。
そう分かっていてもつい読んでしまうのは、眠りに落ちるために読んでいるわけじゃないからだ。
理由なんて必要がないぐらい、私にとって読書は欠かせない。
だからって、一限の必修を落としてもいいかと聞かれると別の話だけれども。
予鈴が鳴って急いでいるつもりなのに、重たい体を支えるので精一杯の短い足じゃあ、走っているつもりでも早歩きにしかならない。
おまけに寝不足なのと朝食を抜いたせいで、エンストを告げるような息切れで立ち止まってしまう。
そんな私の横を、日差しに照らされた長い長い影が過ぎった。
コンクリートの地面に映る違和感に気付き、私は思わず顔を上げる。
音楽を聴きながら歩く人なんていくらでもいるけど、君の耳から伸びる白のケーブルはポケットの中を経由して、手に持った黒いバッグの中まで繋がっていた。
影だけ見るとその姿は何だか、小さい頃によく遊んだリモコン式のロボットを彷彿とさせる。
ケーブルが繋がってないと、前にさえも進めないおもちゃ。
そんな奇妙な影の持ち主である君は、その大きなコンパスのせいであっという間に通り過ぎ、大教室へと続く外階段を上っていく。
その姿が印象的でつい引き寄せられたけど、始業のチャイムが鳴るのを聞いて、慌てて後を追いかける。
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