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心地よい風が吹く夜。少女は一人夜の公園で空を見ていた。
夜空には星など、ほとんど見えないに等しい、見えるといっても一等星が一つ二つ、見えたら目がいいといっても過言ではない程だ。
都会の明るさに負けてしまっている星の光は、都会の明るさのせいでこの地までやってくることができないでいる。しかし彼女は、そんなことなどお構いなしに空を見つめている。
一見すれば馬鹿げた光景、しかし、啓人にはそんな光景が幻想的で美しく感じた。
「あ――」
少女と目が合う、少女は柔らかなミディアムの金髪を揺らしながら夜の路地へと走り去ってゆく。
啓人は呆然としていた。やがて少女が見えなくなると、辺りの音が息を吹き返すようになり始める。まるでさっきまでが別世界にいたかのようにすら感じられる奇妙な感覚を覚えつつも啓人は帰路へと着く。
「ふぅー……」
四月の月曜日、松原啓人は自らが通う神楽ヶ丘大学のテラスで煙草を吸いながらぼうっとしていた。天気が良くぽかぽかとした春の気候は頭が働かなくなる。
啓人はこれといった特徴のない少年だ。外見がそれなりに整っており体格はやや筋肉質ではある。
しかし、群衆に紛れれば一瞬で見失いそうなほど凡庸な見た目だ。
「未成年喫煙とは、感心しないな」
しなやかなロングストレートヘアに、知性を感じさせる凛とした雰囲気を持つ、足を露出したタイトスカートと白衣を着た清楚で背の高い美人が立っていた。
「あ、高島教授」
「君が吸っている銘柄はスターかな」
高島春子は啓人の手元を見てそう言った。夜空と軍艦が描かれたパッケージが特徴的なスターは多くの人々から人気のある銘柄だ。
「ええ、そうですよ」
「法律違反だ。あと、健康に良くない、今すぐやめることを勧めるな」
高島の警告を啓人は無視し、ため息をつく。口から出た細長い青煙が空気と混ざり合い消えてゆく。その姿に高島はため息をついた。
民俗学者である高島は大学内でも人気がある。学会最年少で大学教授となった天才であることも人気の一つだが、一番の理由は彼女自身が美人であるということだ。
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