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だから、彼女が開くゼミには彼女目当てに来る男子が大半を占めるのだが啓人はそういった男子達とは対照的で純粋に学びに来ている数少ない一人である。
「それで、教授。何の用ですか?」
「君、唐突だが、私の下でアルバイトをしてみないか?」
高島がそう言うが啓人は高島の誘いに少し警戒していた。高島は美人で人気がある反面大学一の変わり者としても名が知れている。
それを象徴するように、高島の研究室には民俗学の文献や資料の他に「いわくつき」の物が多くある。一度でも彼女の研究室を見た人間ならば、彼女の手伝いなどしようと思わないだろう。
「俺、今アルバイトしてるんで」
「ふ~ん。君はそう言って嘘をつくのか、三日前にバイト先を辞めたことぐらい調べはついているんだよ?」
なんでばれているのかとびっくりしたが、あらかた見当はつく。高島は大企業の令嬢でもあるためここ最近の俺の様子を探偵か何かに調べさせたのは間違いない。
「それでもですね、人には断る権利ってものが――」
「一仕事、三万円はどうだろう。前のバイト先よりも格段に高額だと思うのだが」
「一体……俺に何の仕事をさせるつもりですか?」
「なに、ちょっとした清掃業さ」
「いや、確実に危ない奴ですよね」
啓人がそう言うと高島はフフッと笑い始めた。確実に危ない案件であることは間違いないのだが、啓人の家は経済的に裕福な方ではなく、大学は奨学金を利用してなんとか入ることが出来た程で、生活費はすべてアルバイトで稼ぐしかない苦学生である。
(金が入るなら高いほうがいいよな……)
心の中でそう思った瞬間、最後の打撃を加えるかの如く高島はさらに条件を付き受けてきた。
「勿論、単位もやろう」
「はい、やります」
即答だった。なにせお金も入って単位も貰えるというのだから、やらないという選択肢は必然的に消える。
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