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「T先輩、やっぱり止めませんか?…」
「…止めるって、そこの盛り塩を片付けろってか?」
Tが尖った口調で聞き返します。静かに頷く後輩に、Sがフォローを入れました。
「いや、コイツもそこまで信じちゃいないとか、そういう訳じゃないけど、何となく…
その“呪いを返す”って事が気になるよな?ちなみに聞くけど、返された相手はその後
どうなるんだ?」
後輩の気持ちを汲み取った形で喋るSに合わせて、彼も頷きます。
Tはしばらく不快そうな表情でこちらを見ていましたが、少し笑った後、とても穏やかな顔
(強面の彼には本当に似合わない表情です。)で言葉を返してきました。
「何だか、本当に優しい奴等だな?それとも人情タップリちゃんなのか?
でも大切な事かもしれないか…別にそんなに気負わなくてもいいよ。聞いた話じゃ、ここで
起こってる事が、そのままかけた方に移るだけらしいから。後は連中に始末をつけさせればいいって話だ。最も、丑の刻参りとかで聞く“呪い返し”は術者に大変なしっぺ返しがある
みたいだし、これだって、送った相手本人から話を聞いた事がないから、どうなるかは、
わからないけどな……
それに……もう時間だ…」
Tの乾いた言葉に、Sと後輩は「ハッ」と気づき、時計を見ました。時刻は午前2時3分。彼の話に集中していたせいか“例の音”は何も聞こえませんでした。
「もう空けても大丈夫だよ。」
続くTの言葉に、二人は、恐る恐る“盛り塩”を乗り越え、玄関を開けました。後輩が
震えながら呟きます。
「無くなってる…」
外に置いてあった五徳の棒がありません。和紙も一緒に持っていかれたようです。静かな
マンションの中、これを持ち上げれば、小さな音の一つはするでしょう?だいたい、五徳の棒なんて、誰が持っていくというのでしょうか?立ち竦む2人の後ろで、手早く塩を
片付けたTが静かに呟きました。
「俺のダチは、コイツに悩まされ続けた挙句、今だに入院してる。」
その声に、二人は振り向きます。驚くほど冷たい表情の“彼”がそこにいました。
「報いを受けるべきなんだよ…」
Tの言葉を聞きながら、後輩は開け放ったドアの外…何処か遠くの方で「コ~ン」と
木槌を打つ音が、かすかに聞こえたそうです…(終)
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