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不機嫌な様子を見せる訳にもいきませんが、ついつい声が大きくなってしまったようです。ですが、後輩はそれを気にした様子もなく、しばらくテーブルを見つめた後、ポツリ、
ポツリと話し始めました…
「始まりは3週間前でした。」
ある平日の日の事です。夜中の2時頃、次の日が休日だったため、夜更かしをしていた
彼の耳に、玄関を
「コ~ン…コ~ン…」
と二回、叩く小さな音が聞こえました。学生時代ならまだしも、今は社会人です。こんな
時間の来訪者はいないと思いますし、携帯にも何も連絡が入っていません。また、同じ
マンションに住む住人達の可能性も考えましたが、会えば会釈する程度の付き合いです。
悪ふざけをするような人もいません。それでも気になった彼は玄関まで行き、
覗き穴を確認しました。誰もいません。不思議に思いながらも、その日は眠りました。
翌日は自宅に戻った後、食事を済ませると、明日は会社があるので、早めに休みました。
布団に入り、熟睡していた彼の耳に…
「コ~ン…コ~ン…」
昨日と同じ音が響きました。はね起きた彼は、玄関の方を見ます。音は、それっきり何も聞こえません。時間は昨日と同じ夜中の2時…朝まで眠る事が出来なかったと言います。
次の日も、また次の日も。何度か玄関を開けて確認をしましたが、
誰もいないのは、いつも同じです。毎夜2時に決まって鳴る音…その内気づきました。
「ドアをノックする音じゃないんです。」
それは、テレビで伝統工芸品を作る職人の特集を観ていた時の事です。作業工程の一部で、職人が木槌を用いて、のみを打つ音が流れた時、気づきました。小さく僅かな音ですが、
玄関で聞こえる音に、とても似ている音だったそうです。
「つまり、誰かが、お前んとこのドアを毎夜になると叩くのか?木槌とのみを使って?大家さんとか近所の人には聞いたか?そんな事があったら警察沙汰だよ?」
Sは若干おどけたように言いました。ですが、後輩は笑いません。
「勿論、聞きました。隣の人も、何も聞こえないって言ってましたし、大家さんも同じです。大体、夜中にそんな音が響いたら苦情来るよ?なんて言われました。ですから聞いたんです。何かいわくのある物件じゃないかと。それにだんだん…」
そこまで言って彼は黙ります。嫌な予感がしました。
「ドアを打つ音が大きくなってるんです。」…
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