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 誰もいないその部屋は少し年季を帯びていて、よく見るとドアや床のフローリングに細かな傷がついている。  窓には紺色のカーテン、棚には本が几帳面に並べられ、出窓には地球儀が置かれていた。  私は立ち上がり、地球儀の置かれた出窓近くの机に近寄る。  机には数学の教科書とノートが広げられていた。  教科書に目を落とすと、開かれている教科書に載っている数式に、見覚えがあった。  私は教科書に手を伸ばした。  だけど、私の手は教科書をすり抜け、掴めない。 「……仮幽霊」  あのやるきのない神様のいった通り、今の私は幽霊なんだろうか。  教科書に落とした視線を上げると、出窓のガラスに反射して人が写っている。  鎖骨より十センチ程長い真っ黒な髪の毛、目にかかる長さの前髪、前髪に隠されたちょっとつり目の目、青いタイに黒いセーラ服を着た、何とも覇気のない少女だ。  私は右手を顔の位置まであげてみる。ガラスに映った少女も手をあげる。  ガラスに映る姿、これが私なんだ――――。  そう思った時だった。  ゴトン――――と、フローリングの床の下から何かが落ちるような大きな物音が聞こえてきて、私はびくりとする。  ……誰かいる? もしかして、やる気のない神様?  さっき言いそびれた事を伝えに来たのかもしれない――――。
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