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幽霊がいるんだ、怪物がいったっておかしくない。
そんな風に考えながら思い切って部屋の中に飛び込んだ私の目に留まったのは、怪物なんかじゃない。
椅子の端を体を支えるように掴み、胸をおさえ蹲る老人の姿だった。
「おじいさん!?」
驚いた私はおじいさんの元に駆け寄った。
だが、おじいさんは私に気づく素振りを全く見せない。
よろける体を支えようと差し出した手は、おじいさんの体をすり抜ける。
見えていない。存在していない、私はここに。
「うう……」
苦しそうな呻き声をあげながら、椅子の端を掴んでいた手が滑り落ち、おじいさんは床に横たわる。
近くにいるのに私は何もできない。
誰か、誰かいないの?
私は慌てて立ち上がり踵を返し、すり抜けたドアから廊下へと出た。
廊下を走りながら、家中を確認するが、人がいる気配がない。
私は足をとめ、立ちすくした。
どうしよう――――。
あのおじいさんも誰にも気づかれずこのまま――――。
おじいさんの姿が、自分と重なってみえた。
ひとりぼっちで、苦しくて、体が冷え、力尽きていくのをただ感じるしかない、やるせない気持ち――――。
カチャン……。
小さな物音が聞こえた気がして、立ちつくしていた私は振り返った。
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