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玄関の扉が開き、暗い室内の廊下に明るい光が入り込む。
眩しくて私は思わず、目を細める。
開いた扉から、少年が中に入ってきた。
私は惹きつけられるように少年をみた。
その少年は、中性的で端正な顔立ちをしていた。
サラッとした髪、少し左にわけた前髪から覗くスッとした目鼻――――、高校生くらいだろうか。黒いコートの下から赤いストライプのネクタイに紺色のブレザーの制服が覗いている。
その少年を目にして、なぜかわからないが、私の胸は不快にざわめき、嫌な緊張が身体に走った。
少年は、俯いていた顔をふとあげた。
その視線と、私は目が合う。
少年は、そのきれいな顔を歪めると、露骨に嫌な表情をした。
「……最悪。またじーさんが勝手に家にあげたのかよ」
そう言うと、少年はチッと舌打ちする。
少年の言葉に、私はただ驚いていた。
その顔に似合わない口の悪さにではない。
この人、私が――――
「……見えるの?」
私は唖然としながら、ポツリと口にした。
「は?」
少年は、スタスタと廊下を歩くと私に近寄ってくる。
「誰か知らないけど、帰ってくれない? 本当迷惑だから」
そう言うと、避けるようにして私の横をスタスタと通り過ぎる。
この人は、確実に私が見えている。私に話しかけている。
その驚きに、私はすぐに動けない。
動こうとしない私の方を少年は足をとめて振り返る。
「聞こえなかった? 帰れって言ったんだよ。今すぐ消えろ」
辛辣な少年の言葉は、私の耳にとどまらずすり抜けていく。
私を見える人がいる。私の声が聞こえる人がいる――――。
その事が嬉しくて、ホッとして、私はこわばった顔のまま笑った。
そんな私の顔をみた少年は、かなり引いたような顔をした。
「………が…う」
私は、口を開いた。
少年はさらに引いた様子で、私から若干後ずさりする。
「え? 何ぼそぼそ言ってんの?」
だけど、そんな少年の様子を気にとめる余裕なんてなかった。
私は、必死だった。
「おじいさんが……、死んじゃう」
私は訴えかけるように少年にそう言った。
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