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「学校が新設されたばかりの時も、似たようなことがあったって訊いたのよ」  鈴木先生の表情はさらに曇っていた。 「開校式の前日に、若い男が来て、雨の日に丘の上の長階段でうちの生徒が怪我をするかもしれないから気を付けてくれないかって言っていたそうなの」  鈴木先生の言葉に、私は固まった。 「二年も前の話で、昔からいる先生達も今では忘れていたらしいわ。だけど、その通りに石橋さんが怪我して……」  鈴木先生が途中で言葉を止め、ぎょっとした顔で私を見つめる。 「……い、石橋さん?」  私の膝にポトリと、頬を伝った涙が落ちた。  急に涙を浮かべた私に、鈴木先生は心配そうにうろたえる。 「どうしたの? やっぱり何か怖い目に――」 「違うんです」  私は涙を拭う。 「全然、違うんです」  泣きながらはにかむ私に、鈴木先生はただ困惑している。 『ユウが事故にあってすぐ幽霊になって俺と会ったんだとしたら……この時期に制服一枚で外を出歩くなんておかしいよな。雨が降っていたならなおさら』   『見たことないんだよね、あんたが今着てる制服』  涙でふせた瞼に記憶が浮かぶ。  記憶を探した添島くんとのやりとり  路地の角から飛び出して、仮幽霊の私の身体をすり抜けていった、小学六年生の私――――  仮幽霊になった私は、一体どこにいたんだろう――――……  冷たい冬の風が、私のいる病院の中庭を駆け抜ける。  一筋の希望の光を一緒に連れて。
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