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◇
黒いセーラー服に、久しぶりに袖を通し、青いタイをきゅっと結ぶ。
まだ空の白む早朝、私は学校へ向かった。
病院を退院して、はじめての学校だ。
宮本先生は、朝早くから学校に来ていると聞き、出張から戻ってくる日に会う約束を鈴木先生に取り次いで貰った。
もちろん、ニュース記事を持って学校を訪ねてきた大学生について聞く為だ。
病院の中庭で鈴木先生から話を訊き、仮幽霊になって違和感を覚えたズレが、全て埋まるように思えた。
私が仮幽霊として過ごしていたのは、現在ではなく過去だったんじゃないか――――。
もしそうなら、いくら探しても仮幽霊になった私の事故のニュースが見つからなかったことも
学校が新設される前の私の制服を添島くんが知らなかった事も
今、添島くんのおじいさんの家が空き地になっていることも、納得できる。
もしそうなら、二年前に学校に来た若い男や、ニュース記事を持って訪ねてきた大学生は――――……。
そうであってほしい。
会いたい。
添島くんに会いたい。
学校に向かう足取りは自然と早まる。
久しぶりの早朝の学校は、まだ人気がなくシンと静かで、自分の足音だけが響く。
私は、宮本先生と約束した相談室の前で足を止め、一呼吸して、教室のドアを開けた。
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