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「一階の階段そばの部屋で、おじいさんが胸を抑えて……倒れてる……」
私の言葉に、少年の顔色が変わった。
少年は鞄を放り投げると、勢いよく走り出した。
私も少年の後を追いかけた。
勢いよくドアを開け、少年は倒れているおじいさんに駆け寄る。
「じいちゃん!」
少年は、おじいさんを揺さぶる。おじいさんは反応しない。
「じいちゃん! じいちゃん!」
少年はひどく動揺しているのか、ぐったりとしたおじいさんを何度も揺さぶる。
「駄目だよ……揺さぶっちゃ……」
私の小さな声に少年はぴくりと動きを止める。
動揺している少年を前に、私は少し冷静さを取り戻していた。
「……落ち着いて。きっと大丈夫」
少年の瞳が正気を取り戻すように冴えていく。
少年はポケットからスマホを取り出すと、119番をダイヤルし耳元にあてる。
「もしもし、救急車を。祖父が倒れていて――――」
状況や住所を口にすると、電話先の消防機関の人に指示されたのか、少年はスマホを耳にあてたまま、蹲っていたおじいさんの体を抱きかかえるようにして仰向けにし、気道を確保するようにした。
そして、立っている私をジロリと見上げた。
「あんた、じいちゃんが倒れたところをみてたんじゃないのか? なんで放置した」
私は答えられない。なんと説明していいのかわからず、すぐに言葉を返せない。
憎しみにみちた目で少年は私をみる。
「……じいちゃんが死んだら、許さない」
家の外から、救急車のサイレンの音が近づいて来る。
救急車のサイレンの音は、耳が痛くなるくらい大きな音になるとブツリと途切れた。
その音を聞くと、少年はドアから駆け出していく。
玄関を開く音が聞こえ、救急隊員が少年と共に部屋に入ってくる。
おじいさんが担架に乗せられ、運ばれていく。
何もできず、騒然とする光景をただ傍観する私の横を通り過ぎようとした少年が私を睨みつける。
「一緒に来いよ」
有無を言わさない少年の視線に圧倒され、私は何も考えることもできず、少年に従い、彼の後に続いて家を出ると救急車に乗り込んだ。
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