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◇
添島くんがいる。
添島くんが、どこかにいる――――
私は、相談室を飛び出した。
地面を踏みしめて、走る。
学校を街を駅を走る。
××大学までの道を調べ、人ごみをかき分け、走る。
息は上がり、鼓動は早まる。
走る風に、目元を隠していた前髪がなびく。
たどり着いた大学の最寄駅は、大勢の人で溢れていた。
私はキョロキョロと、大学に向かう出口を探す。
ハッとした。
行き交う人の隙間から、目に飛び込んだ。
人並みの向こうにいる、小さな後ろ姿。
頭の後方に手を当てるその仕草――――
似てる。
人並みに紛れてわからなくなりそうな、その後ろ姿を人をかき分け追いかける。
その後ろ姿が、本当に添島くんかわからない。
自信が持てない。
「……待って」
私のか細い声は、行き交う人たちの雑音にかき消されて届かない。
前を行く人に、ドンとぶつかり、睨まれる。
見つけた小さな後ろ姿は、どんどん遠くに離れていく。
追いつけない。
私は、立ち止まった。
行き交う人たちが、邪魔そうに私をよけて行く――――
声をひそめ、気配を消し、ユーレイのように生きていた。
あきらめていた。ずっとこうなんだろうと思っていた。
伝えたい言葉は、何度飲み込んできただろう。
だけど、キミは探してくれた。
私を見つけようとしてくれた。
気づかせてくれた。
忘れていた半分の私。
ユーレイじゃない、私がいたこと――――……
私は、両手を握り締め、意を決し、息を大きく吸い込んだ。
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