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「待って! 添島くんっ」
全てをぶつけるように、全身全霊で私は叫んだ。
行き交う人たちが視線が、一斉に私に突き刺さる。
火が付いたみたいに、私の顔は熱くなる。
だけど、私はうつむかなかった。
遠くに見えるその後ろ姿が、私の方を振り返る。
私は、祈るように見つめていた。
「……探しましたよ」
抑揚のない口調で、黒髪のメガネをかけた青年が駅2階の渡り廊下に、音もなく姿を現しそう言った。
渡り廊下の手すりに座っている男が、黒髪の青年の方に顎を上げるようにして顔を向けた。
茶色いくせっ毛の髪がその反動で少し揺れる。
「なんだ、探してくれてたの?」
独特のやる気のない口調で茶化すように言った男と対照的に、
「上司に謝罪に行く日に、遅刻して貰っては困りますから」
黒髪の青年は、生真面目な口調でそう言った。
男が2階の手すりに座っていても、黒髪の青年が忽然と姿を消しても、行き交う人たちは目も向けない。
そこにいる事に気づいていない。
渡り廊下の2階の手すりからは、改札口を抜けて行き交う人々が見下ろせる。
黒髪の青年は、男が見ていた視線の先に目を落とした。
「――どこで油を売っているかと思えば、まだ彼女を見ているんですか?」
黒髪の青年は、少し呆れた顔をした。
「ゲームの結末は、やっぱり見届けないとなぁ」
視線を下の階の行き交う人々に向けたまま、そう答えた男に黒髪の青年は、冷たい視線を向ける。
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