171人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、驚く。
「いっ……たっ!」
添島くんはその手で、私の頬をつねりあげた。
いつか、おじいさんの頬をつねったその時みたいに。
思いも寄らないことに呆然としていると、つねられてヒリヒリとした私の頬に、添島くんのひんやりとした手のひらが優しく触れた。
添島くんは確かめるように私の輪郭をなぞると、涙ぐんだ目を隠すように俯いた。
頬にあてられた ひんやりしている手のひらは、私の体温に染まっていく――――
あたたかさを感じる。細胞が息吹く。行き交う人の足音は音楽のように弾み、しおれていた空気は水々しく、凍てつく寒さに吐く息は、私の息遣いを教える。
私の声はこの世界に振動する――――……
いつもどこか、ため息がこぼれ落ちる毎日。
消えてしまいたくなるような心細さ。
ふと現れる哀しみ。
埋めようのない寂しい気持ち。
その全てを吹き飛ばす瞬間は、思いがけず訪れる――――
俯いている添島くんに私は微笑む。
いつも弱さを一人で隠す、キミにずっと言いたかった言葉。
「ここにいるよ」
走ってなびいた前髪は、私の宇宙人みたいな目元をもう隠していなかった。
遮るもののない視界で目を凝らすと、隠れていた私はここにいて、
ユーレイの私が消えていた。
《終》
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
最初のコメントを投稿しよう!