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「何が良かった、だよ。じいちゃんを助けようともしなかったくせに」
少年は私に鋭い目を向ける。
「わ……私は、助けようと……」
「じゃあ、何ですぐに人を呼ばなかったんだよ」
私が言い終えないうちに、少年は強い口調でそう言う。
「……呼びたくても……出来なくて」
私は言葉につまる。
どう説明すればいいんだろう――――、自分でも状況がちゃんと飲み込めてないのに。
敵意を見せる少年に、うまく話せる自信がない。
「……は……で……」
自信なく出した私の声はいつになくか細い。
「はっきり喋れよ!」
少年が、そんな私に語気を強めた時だった。
「――――何言ってるの?」
声を出したのは、私ではない。
少年と私は、同時に声の先を振り返る。
おじいさんの容態を説明したさっきの看護師が、気味の悪いものをみるような顔をしながら、私たちに近づいてきていた。
「あ……すみません。騒いで」
看護師は私たちの前で足をとめると不安そうに謝罪した少年を見た。
「ずいぶん大きな独り言ね」
「独り言?」
「病室に案内しようと思って来たんだけど……、ご両親と連絡は?」
「……まだです」
「そう。きっと混乱しているのね。誰かに来てもらった方がいいわ。こんな時に一人でいちゃ駄目よ」
「……ひとり……」
看護師の言葉に少年は困惑するように、私の方を見る。
「……この人には、見えてないんだと思う……」
「え?」
ポツリとした私の声に少年が反応する。
信じて貰えるだろうか――――
私は数歩前にでて、看護師の横に並んでたった。
看護師は隣に立つ私に全く気づかず、少年にそのまま話を続けている。
少年が目を見張る。
「私、幽霊みたいなんです。仮の……」
私は正直に少年に打ち明けた。
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