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◇    少年は固まっていた。  数秒間を置いて、私から視線を看護師に移すと固まった表情のまま口を開いた。 「……あの、やっぱり俺……混乱してるのかもしれません」  看護師はそうだろうと言うように深く頷く。 「じいちゃんの顔見に行っても。安心したいんです」 「……そうね。案内するわ」  看護師が歩きだし、少年は一瞬だけ私に視線を向けると、頭を抑えながらその後をついていく。    これは、当然の反応だろう。幽霊なんて言われて信じられるわけない。  そう思うのに、どうしてだろう。  ショックを受けている自分がいる。   私、今唯一私が見える彼に存在を否定されたら……、本当にないものと同じなんだ。  そう思うと足がふらついた。  私は、看護師と少年の後ろ姿を追いかけ、二人が入っていった病室のドアをすり抜けた。  病室には人工呼吸器や点滴をつけられ機械に囲まれた、おじいさんがベッドで眠っていた。  少年はホッとした様子で、おじいさんを見つめている。  「あの……」  私は少年に話しかけた。  だけど、少年は私の声に反応しない。 「少しだけ、じいちゃんと二人にして貰えませんか?」  少年は部屋にいる看護師にそう言った。  看護師は病室の時計を見る。 「15分くらいでまた戻ってきますね」  そう言って看護師は、私の前を通り病室を出ていった。  静まり返った部屋で、おじいさんのベッドの脇に置かれた心電図のモニターが、規則的に音をたてている。  おじいさんが生きている証の音。  少年は私の方を見ない。   「あの、話を」  聞いて――――と言いかけた時、ズキリと頭に痛みが走った。  子供たちがはしゃいでいる教室、窓際の隅、一人でポツンと席に座り窓の外をみる子供の私――――。  砂嵐みたいな記憶の映像が頭に過る。  指先が震える。空虚なぽっかりとした気持ちが襲ってくる。 「……お願い……無視しないで」  ポツリと弱々しい声が私の口から出ていた。 
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