171人が本棚に入れています
本棚に追加
教室のザワめき、窓際の席、窓から見える空、校庭から聞こえてくる子供たちの声。
いつもあの席で思っていた。
私、目も声も姿さえも何も持っていない。ここにいるのに――――
「……反則だろ」
その声に私はハッと意識が記憶から戻る。
いつの間にか、おじいさんがいるベッドに向けていた少年の視線が、私の方に向いていた。
「泣くなんてさ」
「え?」
少年にそう話しかけられ、私は目頭を抑える。
指先に触れた感覚で、目から涙が出ていたことに気づく。
「あ……ごめ……」
「謝られたらもっと罪悪感」
少年は、片眉をあげ、困ったような表情を浮かべる。
「幻覚?」
私は涙を拭いながら、少年の言葉に慌てて首を振る。
「本当に幽霊?」
私はコクコクと頷く。
「俺にとり憑いてる? 呪い殺してやるとか?」
「まさか! むしろ……」
私は考える。なんて言えばいいんだろう。
「……大切」
私の呟いた言葉が予想外すぎたのか、少年は目が点になる。
「大切……って何?」
少年の声は、意味がわからないという口調だ。
私は、ガバッと勢いよく頭を下げた。
「私を助けてください!」
そして私は少年に、そう訴えたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!