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「ユーレイ?」
昼休みに聞こえてきた話し声に、教室で本を読んでいた私は思わずピクリと反応する。
声の主は、私の前の席に集まってお弁当を食べている華やかな女子グループ達だ。
「そう。見たんだって、B組の理沙が。あの死神屋敷の近くで」
「何それ。ただ生きてる人間がいたのをみただけなんじゃない?」
「そーなのかなぁ。すごくキレイな顔した男だったって騒いでたんだよね」
「それ、イケメンみたから騒いでるだけでしょ」
華やかな女子グループは、可笑しそうにクスクス笑い出した。
私は自分がユーレイみたいと陰口を言われたのではないのだと少しホッとして、本に意識を戻し、何反応しているんだろ……と心の中で自分自身を笑う。
ここは4年前の小学六年生の教室ではない。
今の私はいるのかいないのかわからない、教室の椅子とか机とかそういう背景みたいなもの。
それは、家でも同じ。
「……あ、いたんだ」
家のリビングに入ってきた『妹』は、冷蔵庫の前でお茶を飲んでいた私を見ると少し驚いた表情でそう言った。
「気配しないんだもん、驚かさないでよ。お母さんは?」
「……買い…に行っ…みたい」
「え? なに? ポソポソ話さないでよ。聞こえない」
私の小さな声に、妹は眉を潜める。
「……ごめん」
妹は、謝る私に尋ねることを諦めた様子で、ため息をつきながら鞄をソファーに置き、洗面所へ向かっていった。
私もリビングから、自分の部屋へ行った。部屋へ入ると閉めたドアに体を預けもたれかかる。
誰かと電話をしているのか、妹の楽しそうな話し声がドア越しに聞こえる。
妹と一緒にいても何を話していいかわからない。
一年前、父の再婚で三つ下の妹ができた。
新しいお義母さんも妹も、私に家族としてちゃんと接してくれようとするいい人たちだ。
だけど私は、上手く溶け込めない。なんだかいつも緊張してしまう。
学校も家も、どこにいても落ち着けなくて、いていい場所が私にはないような気がして、たまにちょっと泣きそうになる。
いてもいなくてもいいようなこんな私に、存在する価値があるように思えない。
それなら、もともと存在しないものとしてこのまま消えてしまえたらいいのに――――。
そう、願っていたからだろうか。
これから起こる、あの雨の日の出来事は、自分が望んだ結果だったのかもしれない。
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